- 振動解析のCAEを外注委託しようとしているんだけど…
- 何社か相談してみたものの専門用語の理解に苦しむ
- 上司に言われて外注先検討しているがそもそも振動解析で何が分かるの?
- 固有振動数解析、周波数応答解析とか言われても…。振動工学勉強してるヒマ無い!
- 外注委託先って何を基準に選定したら良いの?
- 振動トラブルの対策を検討したいだけなんだけど
- 自分で振動解析やったことが無いから費用感は良くわからん
CAEで振動解析をやったことが無かったり、外注委託をやったことが無い人からしてみれば、CAEの振動解析を外注委託するのは面倒ですね。
上司に言われたからとは言え、見積を取るための仕様作成あるいは仕様を考えるために振動工学の勉強が必要になると尚更うんざりですね。通常業務で忙しいですからね。
とは言え、設計者にとってCAEを活用することは『設計品の品質向上』、『業務の効率化』をする上で非常に有効な手段だと思います。
そこでこの記事では、初心者が迷わずに振動解析のCAE外注委託をできるようになる考え方をまとめて解説します。
この記事を読めば、『ゼロから振動解析のCAE外注委託を始め設計に有効にCAEを活用できる方法』が分かります。
「CAE受託ドットコム」は、CAE歴20年の管理人が自身の経験を元にCAEの有効な活用方法を発信するブログです。
下記に関連する内容でお困りごとがあれば下記ボタンのお問い合わせフォームに質問事項をご連絡頂ければ、時間があるときに回答させて頂きます。リクエストなどにも対応していきたいと思います。
振動解析の外注委託で後悔しないために知っておきたいことは?
発注前に知っておきたいこと
振動解析をすると何が分かるの?設計にどう役立つ?
振動解析を行う目的は大きく分けて二つあります。
- 構造物の共振周波数と振動モードを知りたい
- 構造物に振動を与えた際の応答(変位、加速度、応力)を知りたい
構造物の共振周波数を知るためには、固有振動数解析をする必要があります。左の図はt1.0の金属プレートの4辺をピン拘束した際の固有振動数をCAEで計算した事例です。この場合、固有振動数は、4.9Hzだったので4.9Hzの加振力が入力されると共振し、左の図のような振動モードで振動します。
共振してしまうと、入力加振力の何倍、あるいは何十倍もの力が発生してしまいます。CAEで構造物の共振周波数を把握すれば、加振力が入力される構造物の共振を回避した設計ができます。また、振動モードが分かれば、振動を抑えるための対策も考えやすいです。左の図の場合、金属プレートの中央を固定すれば振動を抑えることができます。
次に、構造物に振動を与えた際の応答(変位、加速度、応力)を知るための方法について述べます。
構造物に振動を与えた際の応答(変位、加速度、応力)を知るためには、固有振動数解析ではなく、周波数応答解析、時刻歴応答解析などをする必要があります。右の図は、はりの両端に加振周波数4Hz、±100mmの強制変位を入力しCAEで周波数応答解析を行った事例です。この場合、両端を±100mmで加振していますが、中央は約±3000mmの変位量が発生しています。変位だけでなく、同時に加速度、応力も計算できます。
このように、構造物に想定する加振力や加振変位(速度、加速度)を入力した際に、構造物がどの程度変形し、どの程度の応力が発生するのかを計算することができます。
左の図の固有振動数解析では、固有振動数と振動モードしか分かりませんが、右の図の周波数応答解析ではどの程度構造物が変位し、どの程度の応力が発生するのかが分かります。
外注委託するときはどうすれば良い?
外注委託を考えている方にまずやって欲しいことは、抱えている問題点や課題を明確にすることです。
具体例を挙げると、振動解析関連の課題としては以下ようなものがあります。
- 構造物にき裂が発生したためその原因について調査し、対策を考えたい
- 構造物から騒音が発生し、体調を崩してしまう人が出ている
- 見た目で構造物が振動していていつか破損しないか心配
- 新製品の設計でCAEを活用したいが自社にCAE技術者がいない
- 設計にCAEを活用しているが、実機試験で破損してしまい設計に手戻りが発生している
課題がどれに該当するのかが明確であれば、どんな解析がおすすめなのか、どんなツールを活用すれば良いか、どんな試験方法をすれば良いかは外注委託先が考えてくれます。逆にこれが出来ない会社へ依頼すると、全て発注者側が指示しなければならないのでお金を支払ってやってもらう価値は無いと思います。あくまで設計者にはその製品設計の価値を高めるところに知恵を使うべきですからね。
次に必要なことは、課題対象の製品図面、CADデータ、課題発生の状況把握の準備です。
特に、き裂が発生したり、破損、騒音が問題となっている場合は、図面やCADだけでなくその状況を外注委託先に正確に理解してもらうことが重要です。
これだけ準備できれば、外注委託先のHPで振動解析というキーワードがあればお問い合わせページに入力して問い合わせしてみましょう。Zoom、TeamsなどのWEB会議で担当技術者に抱えている問題点や課題を図面を見せながら状況を伝えれば、最適な検討方法を提案してくれます。下手に自分で考えるよりプロに任せれば簡単に解決することもあります。
外注委託先はどういう基準で選定すれば良い?
外注委託先についてあまり検討したことが無い方は、時間が許すのであれば色々と見積を取ってみることをおすすめします。抱えている課題に対して、どんな方法でどの程度のリソースを使ってアウトプットを出すのかは各社異なります。
これは単純に技術力の差です。技術力があれば、問題の本質を見抜いて課題を早期解決に導いてくれますが、技術力が不足していると課題がなかなか解決しません。
これは対象課題の難度によりますが、色々と見積を取って各社の仕様を見比べて納得感の高い外注先を決めて下さい。納期的な制約がある場合はあると思いますが、後々後悔しないためにも社内の有識者に相談するなどしっかりと吟味してください。課題解決を最優先し、無駄なコスト、時間を浪費しないように注意してくださいね。
見積や納期について更に知りたい方は、【CAE外注委託】受託解析会社の選定、価格など初心者が知っておくべき4つのポイントで解説していますので、そちらもあわせて見てください。
発注時はどんなことに注意が必要?事前準備は?
繰り返しになりますが下記の2点です。これらの準備が出来たら即打ち合わせです。
- 抱えている問題点や課題を明確にする
- 課題対象の製品図面、CADデータの準備、課題発生の状況把握
迷っている時間があれば、さっさと見積、仕様の作成依頼をかけましょう。外注先への相談に時間をかける必要はありません。それよりも数社見積をとってどの仕様が課題を解決できる可能性が高いのか?に時間を費やして下さい。仕様書も外注依頼先に書いてもらえば、社内手続きやいざ発注するときの仕様作成も楽になるはずです。仕様書を作成してくれない会社があれば、他を当たりましょう。時間がもったいないです。
発注後に知っておきたいこと
結果を報告してもらう時に注意すべき点は?
最近はZoom、TeamsなどのWEB会議が簡単にできるので報告書を受け取る前に、速報を提出&WEB会議で結果報告をしてもらいましょう。速報の段階で報告書はこういう風に書いて欲しいなど、WEB会議をしておけば要望を伝えやすいと思います。
できれば打ち合わせ前に質問内容も整理しておくと良いと思います。
例えば、下記のような質問事項をしておいて、報告書にも記載して欲しいなどの要望を伝えると良いと思います。
- 応力が高くなっている部位が・・・・なのはなぜなのか?
- 固有振動数が対策によって・・・しか上がっていないのはなぜなのか?
- 現状の設計に対して、どのように設計変更すれば応力は下がるのか?
- 現状の設計に対して、どのように設計変更すれば固有振動数は上がるのか?
- もっと効率の良い設計をするのであればどのような形状が良いのか?
- 現状は、評価方法として・・・・で評価しているが、もっと良い評価手法は無いか?
質問事項を考える上で、【固有値解析って手計算でできる?】共振について考える振動解析の検証方法や【固有値解析】コスパ最強!固有振動数解析と共振回避の方法が参考になると思いますのでご参考下さい。
何か設計のヒントになるかもしれないのでCAE技術者を有効活用しましょう。
検収時に注意すべき点は?
速報の報告の際に伝えたいことを伝えておけば、検収時に特に注意すべき点はありません。報告書を受け取ったら検収手続きをすすめましょう。どうしても速報の報告の時間が取れなかった場合、検収後でも報告会をやってくれます。心配であればその点については事前に確認してみて下さい。
検収後のアフターフォローは?
検収が終了したからと言って、案件終了後は何も質問等に答えてくれないということは無いです。新たな疑問点や詳細についてもう少し知りたい場合は質問しましょう。仮に質問に答えてくれない外注先があった場合は、二度と活用すべきでは無いです。
検収後のアフターフォローについては、実は外注委託先にもメリットがあります。案件終了後もお客さんと繋がりがあれば、何か別の問題が発生した場合に気軽に相談してくれるので次の受注に繋がる可能性が高まると考えるからです。
振動解析って色々あるけれど一通り概要を知っておきたい
固有振動数解析で何が分かる?
固有振動数解析をすると、構造物の固有振動数(1次,2次,3次…n次)と各次数における振動モードが分かります。
上の図は両端ピン支持はりの固有振動数解析の結果です。左から1次モードは4Hz、2次モードは16Hz、3次モードは36Hzの固有振動数であることが分かり、各周波数で上図のような振動モードで変形することが分かります。
言い換えると、上の図のはりが4Hzの加振力が入力されると1次モードのように、36Hzの加振力が入力されると3次モードのように共振が生じてしまいます。
したがって、できるだけ共振を避けるためには加振力の周波数と固有振動数(4Hz,16Hz,36Hz…〇Hz)と一致しないように設計することが必要です。
加振周波数と固有振動数をどこ程度離せば安全なのかについて知りたい方は、【固有値解析】コスパ最強!固有振動数解析と共振回避の方法を参照下さい。
ちなみに、『固有振動数解析』は『固有値解析』とも呼ばれますが、同じものを意味します。『固有値解析』は、『固有振動数解析』だけでなく『座屈固有値解析』も含みますのでそれを区別するために『固有振動数解析』と記載しています。
周波数応答解析で何が分かる?
固有振動数解析は固有振動数と振動モードが分かるのですが、変形量、応力が分かりません。変形量や応力が分からないと構造物が何万回の繰り返し数で疲労破壊するのかも分かりません。こんな問題を解決してくれるのが周波数応答解析です。
周波数応答解析は、指定周波数で加振力(変位、速度、加速度)の振幅を入力したときに何Hzでどの程度の変位、応力が発生するのかが分かります。別の言い方をすると、共振の影響も考慮したときの変位、応力が分かるということです。これは構造解析では解析できない振動解析ならではの解析です。ちなみに、この時の入力は正弦波(sin波)が基本ですが、場合によっては、位相(0°~360°)をズラすことも可能です。
上図は鉄の丸棒両端部を0.24[N]の荷重で4[Hz]と8[Hz]で加振した周波数応答解析の事例になります。
丸棒の固有振動数が8[Hz]なので、加振周波数8[Hz]では共振が発生し変形、応力が大きくなっていますが、加振周波数8[Hz]では変形、応力も小さいですね。
周波数応答解析は変形量、発生応力が分かり、最終的に疲労破壊評価まで可能です。
上記のように周波数応答解析は万能のように見えますがそうとも言えず、以下のような場合は取り扱いに注意が必要です。
- 非線形を考慮する必要がある問題
周波数応答解析は線形解析で振動モード(波)の重ね合わせの原理で計算します。重ね合わせの原理は線形問題として扱うことができるという前提があるため、非線形問題は扱うことができません。
非線形問題を扱う場合は、下記で説明する時刻歴応答解析で解析しましょう。
ランダム応答解析って何?どういう時に使うの?
ランダム応答解析はランダムな加振力が入力される構造物の振動を評価する手法です。自動車やトラックなどの走行に対する振動評価に対して活用されるケースが多いです。他にも流体の渦による加振もランダムなので流体の渦による圧力加振で構造物が振動する場合でも活用できます。
ランダム応答解析は入力加振として、PSD(Power Spectrum Density)というエネルギーを入力して加振し、アウトプットは変位や応力のRMS(Root Mean Square)値で評価します。
アウトプットは正規分布を示すという仮定を置くことで出力されるRMS値は、±1σ(σ:標準偏差)の値を示すことになります。
前田清隆ほか:自動車技術会予稿集,Vol.46(2015)No.1
±1σを言い換えると、発生確率68.3%の数値を意味することから、出力される変位RMS値や応力RMS値は、68.3%の確率で発生する変位や応力の値となります。
±2σ(σ:標準偏差)の場合は、95.4%の発生確率
±3σ(σ:標準偏差)の場合は、99.7%の発生確率
となり、±3σまで考えればほぼ発生確率100%の近似値として評価することができます。
ここまで読んだ方は、こんな良く分からない方法なんで使わないよとお思いの方もいると思いますが、使いどころによっては非常に便利な方法です。
ランダムな加振力が入力される場合は、解析する方法としては次に説明する時刻歴応答解析をするか、ランダム応答解析をするかの二択になります。
時刻歴応答解析は直感的には理解し易い解析ですが、解析する時間が10minや1hrの自動車の走行となると、計算ファイルが膨大になり計算できない、あるいは、出力ファイルが大きすぎて結果を見ることができない、計算時間がかかりすぎるなどの問題が生じます。
ランダム応答解析はアウトプットはRMS値(変位、応力)なので出力ファイルが膨大になる心配も無く、出力ファイルのも小さく、計算時間も少なくて済みます。
さらには、仮に時刻歴応答解析で問題なく結果が見れたとしてもその膨大な時刻歴の変位、応力をどう評価すべきかという問題に直面します。一方、ランダム応答解析はRMS値(変位、応力)は単一の結果なので評価するのも簡単です。
ただし、注意点として、入力加振点が複数ありその位相差が大きい場合はランダム応答解析では実現象を再現できない場合があります。ランダム応答解析の詳細については、別記事でそのうち作成したいと思います。